わたしの場合、「小説を書くこと」以外、だいたい全部、「日常」に収まってしまう気がする。作家なのに、小説を書くことが「非日常」というのは、理解しづらいかもしれない。だが、デビュー作以来、今もわたしにとっては小説を書くという行為は極めて特別なことで、あまり楽しい時間ではないが、スリリングで、他では絶対に得られない充実感がある。理由の一つは、脳がフル回転するということかもしれない。

少し前まで、日常の象徴はテニスだった。テニスをはじめたのは、二十代後半、都内から「たまプラーザ」に引っ越してからだ。あたりをボルボで走ってみると、やたらとテニスコートが多かった。さっそく、あるクラブに入会したが、テニスほど初心者に残酷なスポーツはない。ある程度の技術を身につけないとまったく面白くないという意味ではゴルフと似ているが、ゴルフは打ち放しの練習場があり、ごく稀に芯をくったりすると爽快感がある。テニスの初心者には爽快感がない。

二十七歳のとき、『コインロッカー・ベイビーズ』という書き下ろし小説を書きはじめた。集中が必要だろうと、版元の出版社が草津にある山荘を提供してくれた。草津の街からも少し離れた場所にあり、管理人のおばさんによると、多くの作家の先生方が来たが、たいてい「ここは寂しすぎる」と二、三泊でお帰りになった、ということだった。わたしは、その山荘に二十九泊して小説を書き続け、「記録です」とおばさんに言われた。

温泉に入って、食事をして、執筆して、寝る、という毎日だったが、気分転換にテニスコートに行き、ひたすらサービスの練習をした。一時間ほど打ち続けるのだが、初心者に変わりはなかったので、まともなサービスは百回に一回もなかった。それでも、毎日サービスを打った。

「ボルボに乗ってテニスに行くこと」は、そのあと大いなる楽しみにとなるわけだが、そのイントロは、草津で築かれたのだった。いろいろなテニスクラブに遠征し、当時ボルボのトランクには常に数本のラケットが収まっていた。テニスは日常と化していた。かなり上達したが、腰を少し痛めてから、ほとんどやらなくなり、スポーツは水泳がメインになった。

だが、今のボルボにも、二本、ラケットがちゃんとトランクに収まっている。ボルボのトランクに、テニスラケットがあると、不思議なことに心がとても落ち着く。


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